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近藤夫妻の2000年3月山行記録

弥仙山(京都府北部)664m関西百名山 2000.3/25


 最寄の駅はJR舞鶴線「梅迫ウメザコ」駅だが、小さな駅なのでタクシーが無いと思って「西舞鶴」駅(梅迫の次の次)まで電車に乗った。タクシーの運転手は、弥仙山を知らないらしい。私達はこうして、全国のタクシー運転手を未知なる道へいざなう事、幾多りか・・・。本当は嫌がる彼らを、叱咤?激励詫びつつ、こちらも行った事は無い道を地図を見ながら誘導する。集落を過ぎて山の寂しげな道に入ると、彼らの心細げな心境が伝わってくるのだが、夫は無情にも、まだまだ先の登山口への行ける所までは運転させるのだ。
 積雪のため、林道の途中大又の集落を過ぎてすぐ)で止まってしまったが、水分神社はさほど遠くない。おりしも午前中は天気が悪く、空が灰暗く雪もちらついて、運転手の心配を煽ったのだろう、私達を
見送ってから帰ったようだ。
 水分神社は、立派な大木があって古く、由緒ありげな佇まいである。杉林の道を登っていく。小さな渓谷沿いの道で、初春の林道は雪や倒木があって、濡れて少し歩きにくい。雪に埋もれた石段を登る時も、下を流れる水音に春を感じるのだが、しんしんと雪の降る於成神社は、まだ冬模様で、鳥居に掛かった白い紐は深くだらりと足れていた。立派な御堂があり、屋根の下で一服させていただく。
 ここから先は
雪も膝上位ありひと登りすること、長く感じるが鞍部に出ると緩やかな雑木林帯になる。「改心の道」の道標が現れ、分岐した登山道が登ってくる。この道は、この周辺で暴れ回った天狗が和尚さんに詫びをいれたという民話から付けられたらしい。
 頂上の
金峯神社が見えてきた。ここの鳥居の掛け紐も大きく垂れ下がり、しんしんと真っ白な雪に埋もれて、そのご神域に立ち入るのがはばかられるような、森厳な気持ちになる。鳥居をくぐると大きくないお社があり、当然扉は閉まっているが、周りを一周させていただく。天気が良ければ、北は青葉山、西は大江山ほか丹後但馬の山々、東は隣の君尾山(昔はこの山とつなぐ修験道場だったらしい)などが望めるらしい。
 何も見えないし、じっとしていると寒いので、早々に下ることにした。
改心の道を下ると、日置谷へ下り登山口へ戻る別コースがあるのだが、雪もあるし短い往路を戻ることにする。早々に於成神社に到着お昼を過ぎて、雪も気温も上がり、ここでお昼ご飯を食べた。
 午後天気回復、きらきらと春光差し込む林は、雪解けてポタポタと水滴落とすが、これも春の味わいがあってよい。水分神社の大木(お名前が分からないのが悲しい)を愛でて、しばらく歩くと可哀想に、桜の倒木がある。いっぱい蕾を付けていたので、その枝を2本手折って持ち帰った。家で花咲くといいのにな。 人家のある山里は、すっかり春めいて田畑の畦や道端に蕗の薹や野草の花が咲いていた。
 振り返ると、ようやく待ち望んだ
弥仙山の、最大の特徴、弥仙であるが理由の鋭角三角形の突起した鋭峰が見えてきた。周辺の景色から超絶したその山容には、驚きを感じずにはいられないだろう。異相なのだ。かつこの端麗な山姿をもって、奈良時代から古来信仰の山として開けていた。麓と中腹と山頂に社がおかれて、それらを繋ぐ参詣道を私達も登ってきたのだった。
 ガイドブックには、古くから参詣者達は小石を持って登ったという。名高き若狭富士「青葉山」に対抗するためとか、隣の「君尾山」と背比べをしたとか、説は違うがこれもそれも郷土愛ゆえのほほえましい挿話である。山は、愛でられてこそ、である。
 昔、山は神が住んだ所であり、その里人が死んで魂が山に上り、祖霊となり、祖先霊(氏神)となって里を守っている。お盆にご先祖様を迎えるために、山道を荒らさないように整備し、山を敬ってきた日本人の心や習慣は、留めようもなく変わってしまった。だが、誰もが故郷や自分が住む山や景色は目に胸に焼き付いて、忘れがたく愛しいものであるはずだ。地元の人々に愛されてこそ、「名山」の条件も風格も備わるのである。
 夫の少年期からの愛読書、「京都北部の山々」著者金久昌業氏の名文は、1999年由良ヶ岳の記録で紹介した通りだが、氏はこの弥仙山についても、深い憧憬を込められた文章を寄せている。特にこの山姿については、「遠望尖頂の特異な存在」と延々と褒め称えている。(氏の豊富多彩なボキャブラリーの一端を少し流用させてもらった事を白状しておきます)
 夫はその山を何度も振り返り仰ぎつつ、実は私は道端の蕗のとうやツクシやノビルを時々収穫しながら、綾部市於与岐町の車道を歩いた。車も少なく春の山里風景は、本当に気持ちよい。すると、後ろから誰か追いかけてきた。その人は、弥仙山のホームページを開催しているグループの一人で登山者と見れば、声をかけるらしい?こんな雪の日に登って来た私達を嬉しく思われたようで、記念に弥仙山と私達の写真を撮られた。この人も、故郷の山を愛されているのだなぁ。
 梅迫の駅前には、ちゃんとタクシー会社があった。家に帰って、今日の春一番の収穫を天ぷらでいただいた。野の香り強く、美味しく幸せな夕食なのだ。彼のHPを開いてみたら、早速私達夫妻が紹介されているのには、驚いたが、今日も楽しい一日だった。
 後日、持ち帰った桜の枝に、「花開いた」とメールを送ったところ、かの山でも桜が満開だとのこと。ちょっと心弾む、嬉しくなる話ではないか!

弥仙山のホームページ
京都府北部綾部市にある、美しい三角錐の山、弥仙山の四季と伝説。私達夫婦は2000年3月に雪の中を登山。下山帰途、このサイトの作者とお会いすることができました。

<行程>宝塚JR、青春18切符福知山→西舞鶴タクシー→登山口(手前)…→水分神社…於成神社…弥仙山山頂の金峯神社…往復…水分神社…於与岐町の集落…→梅迫JR→宝塚