昨今は、輸入盤の情報、ネット上での検索、輸入CDショップの大型化により、クラシック音楽のあまり広く知られていない作曲家の音楽を聴いたり調べたりすることはかなり容易になってきました。
CPOやマルコ・ポーロのように知名度の低いレパートリーに力を入れているレーベルがあったりして、たとえばドイツロマン派のマイナーな作曲家などはかなりCD入手もやさしくなってきました。北欧やイギリス、ロシア音楽などもそれぞれ充実したカタログをもつレーベルがあり、このあたり非常に幅広く多くの作曲家の作品を聴かれている詳しい方も多く充実したWebサイトもあります。
しかし、レパートリーの隙間を埋める形で網羅的にがCD化されたりする一方、ある地域と時代を代表するものでありながら情報の空白となっている方向もあります。
そこで、私は、ここでは、まだ自分自身、CDでも演奏会でもまだ接する機会がなく、いったいどんな音楽だろうと、聴く機会と情報を探している音楽を、単にあげてみることにします。
演奏、録音、作品、作曲家などについて、何か情報をお持ちの方がおられたら、是非、ゲストブックあたりに書きこみをいただけるとありがたいです。
2000年1月25日記、5月7日補足
近藤浩平
「12のコルシカの歌」、「典礼ファンファーレ」、「トランペット協奏曲」など一部の作品のみが知られるコルシカ系の作曲家アンリ・トマジ(1901−1971)は、数多くの興味深い題材による音楽を作曲している。“Jeux de Geishas”(1931)というような日本を題材にした作品もあり、これなど知らずに聴くと貴志康一かあるいはその次の世代の日本の作曲家のものか思ってしまいそうな音楽だ。
*CDはREM311255で入手可能
トマジはインドシナの植民地向け放送(“Poste Colonial”1931設立)の音楽監督であった、前出の「芸者」も、この放送のために書かれたものである。今、この作品を聴くといかにもフランスの植民地向け放送のための異国趣味の気の利いた作品という域を越えていない。
しかし、トマジの後期の作品には、非常に興味を感じるものがある。先のCDではJ.S.バッハの引用のある“Silence de la mer”(1960)やコルシカの古い戦いのダンスによるという“La Moresca”を聴く事ができる。
私が是非聴いてみたい作品は、「第3世界の交響曲」(1967)、J.P.サルトルによる交響詩「ヴェトナムの為の歌」(1969)といったインドシナに関わる作品である。トマジはいわばヨーロッパの中の「第3世界」的なコルシカの立場を強く意識していたようなのだが、第2次世界大戦後の世界における「第3世界」をどのように意識していたのか、それをどのような音楽として表現したのだろうか。
1960年の「真夜中のミサ」も、児童合唱、ガルベ、オーボエ、チェレスタ、ヴィブラフォーン、ギター3という珍しい編成であり、モーリス・オアナの合唱作品にも通じるような独自の世界を開いているのではないかと期待させるものがある。
2000年5月7日
山尾敦史さんのサイトの「うたかた日記」2000年1月11日分で、かの有名な「コンドルは飛んでいく」(El Condor pasa)がトラディショナル・ソングではなく、ペルーのロブレスという作曲家のオペラ「コンドルカンキ」の1曲だということが触れられています。
ちょうど私も、昨年10月に出た竹村淳氏の「ラテン音楽名曲名演名唱ベスト100」(講談社)というすぐれものの本に、「曲はペルーのダニエル・アロミアス・ロブレス(1871〜1943)が民話をベースにしたサルスエラのテーマ曲として1913年に発表したもので、民間伝承の感覚がたくみに生かされている。」と書いてあるのを読み、驚いていたところでした。ラテン・アメリカのサルスエラ。聴いてみたいものです。
ブラジルポピュラー音楽の大御所女性歌手ガル・コスタが歌っている「インディア」という名曲、谷川越二氏によるCD解説によれば「ホセ・アスンシオン・フローレスと詩人マヌエル・オルティス・ゲレーロの二人が、1930年パラグアイ風オペラのために書き下した作品」とあります。
パラグアイ風オペラとは一体、どんなものなのでしょう。世界には知らない音楽がたくさんあるものです。