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2004年3月5日MU楽団演奏会を聴かれてのご感想を
作曲家、小森俊明氏がお送りくださりました。
ありがたいことに公開の許可をいただけましたので、ここに全文を紹介させていただきます。

参照:MU楽団2004年3月5日「室内楽の現在」の記録

作曲家、小森俊明氏にお寄せいただいた
2004年3月5日MU楽団「室内楽の現在」へのご感想

「室内楽の現在」
●鈴木朝子:水の夢
鋭敏な耳により音がよく選ばれた大変美しい曲です。ロマンティック
なスタイルですが、モティーフを契機として意の赴くままに自由に発展
させる方法に拠っており、一聴したところ、感覚的な趣が強いです。
又、各楽器の音域の配分に個性が見られます。2楽章と3楽章の
間にもう一つ楽章があると良いと思いました。演奏については、
チェロの音程が不安定だったのが残念です。
●近藤浩平:木管5重奏曲「上海の猫」
全体は古典的な配列による3楽章から成っていますが、各楽章の
性格・スタイルには違いが聴かれました。特に興味深かったのは、
マクロ的には、発展の原理に拠らずに淡々と進行する平坦な音楽の
在り方、そしてミクロ的には、1楽章で所々に指標の様に現れる
ややモーダルな下降音型です。演奏もアンサンブルが良かったです。
●くりもとようこ:鏡ノ中ノ曼珠紗華
とても緊張感のある表出力の強い作品です。それには、高音楽器
2本を含むトリオ、と云う楽器編成の選択が功を奏していると思い
ます。又、楽器法・テクスチュアが変化に富んでいたのが良かった
です。
●野村誠:自閉症者の即興音楽
作品のアイディアは面白いと思いますし、実際に鳴り響いた音楽にも
趣味的な興味を惹かれました(音楽にはガムランの影響も認められ
ます)。しかし、コンセプトに反して音楽の構成・ドラマトゥルギーは
随分と予定調和的なのが気になりますし、皮肉な事でもあります。
それどころか、初めて聴いた時に展開が或る程度読めさえしました。
この作品は、「様式化された(或いは理想化された、抽象化された)
自閉症者の音楽」と呼ぶのさえ気が引ける程です。
●酒井格:夜想曲第2番
明らかに特定の作曲家や時代様式(この曲の場合はシューマン、
ラヴェル、20世紀初めのロシア・ロマンティシズム等)を想起させる
曲であっても、作曲に相応の動機があれば、現代に於いても作品
自体の価値のみを評価対象にすべきでしょう。この作品には、
「メシアン編成」によるロマン派スタイルの楽曲を作曲者自身が演奏
したかったと云う、説得力ある作曲上の動機があります。この作品は
大変美しいです。各楽器の音色のブレンドはよく考えられていますし、
テーマはとても魅力的です。残念なのは、単一楽章で、しかもさほど
長大では無いこの曲に配置するには、テーマのサイズがやや大きい
(長い)と云う事です。テーマのサイズはその曲の規模を推定させます。
この作品は兎に角演奏に参加して楽しめる曲だと思います。
●大前哲:アルトロ・フェストーネ
「室内楽の現在」の出品作品の中で最もオーソドックスなスタイルの
作品です。大前哲氏は、前衛モダニズムの潮流を担う最後の世代に
属するでしょう。50年代以降に生れた作曲家は前衛モダニズム以外の
道を進むべきでしょう。この作品では、作曲者の言われる「彫りの深い」
音楽がよく実現されています。音のある部分と休止の部分の対比や
色彩的な楽器法が、聴き応えのある作品を作り出しています。今回の
コンサートの中では最も手慣れた作曲だと云えると思います。
●近藤浩平:旅について
とても面白い作品です。今回お送りいただいた近藤さんの作品の中で
最も面白いと思います。全体にストラヴィンスキーやマルティヌーを
始めとする新古典主義の作風が浸透していますが、構成法は独特
です。全体から始めて各部分を設計するのでは無く、部分を並列的に
構成して行く手法に現代性を感じます。各部分の並列はの変遷は、
伝統的なオペラに於ける各シーンの並列に近いものを感じました。
この曲に即して言えば、それは旅のプロセスで目に入る風景・眺望の
変遷と云えるでしょう。それは弁証法から程遠いものです。この曲は
終り方が予想出来ません。

2004年4月21日

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