山の作曲家、近藤浩平のページ トップページに戻る

MU楽団演奏会「室内楽の現在」2004年3月5日の記録

現在活躍中の作曲家を多方面から迎えて、演奏家、聴衆、作曲家の直接の接触の場をつくりだすことを目標に、2002年10月26日に開催された「室内楽の現代〜6人の作曲家の現在」に引き続く企画第2弾として、2004年3月5日MU楽団演奏会「室内楽の現在」が開催されました。約80人ほどの来場で、ほぼ満席。作品をお寄せいただいた作曲家諸氏は全員、当日出席され、全ての作曲者が演奏前に一言しゃべるという趣向も、現代の作曲を身近に感じてもらえて良かったかと思います。各氏の作品は実に多彩で聴き応えのあるものでした、
野村誠氏の音楽は涙がでるほど面白かったし、酒井格氏は現代でここまでロマン的情熱が全開する曲を書く力量に感嘆、くりもとようこ氏は、自ら楽器になってしまうような身体感覚、鈴木朝子氏は妖しい美しさと幻想、ここに関西の現代音楽の歴史そのもののような大家、大前哲氏の最新作の日本初演を迎えるという盛りだくさんな内容で、演奏は自発性に富んで実に豊かな音楽。実に楽しい演奏会でした。

また、客席に何人かの作曲家諸氏も来場されていました。遠隔地からお見えの方も少なくありませんでした。

2004年3月5日(金) 19時開演 西宮市甲東ホール 全自由\1500 高校生以下無料
MU楽団演奏会『室内楽の現在』
主催:MU楽団 企画:近藤浩平、植田浩徳
曲目:
鈴木朝子:水の夢〜フルート チェロ ピアノの為の〜(2004)初演
 フルート 江戸聖一郎  チェロ 江口陽子  ピアノ 植田浩徳
近藤浩平:木管5重奏曲「上海の猫」(2003)初演
 フルート 江戸聖一郎  オーボエ 平山幸子  クラリネット 福前裕子 
 ファゴット 原梢  ホルン 永武靖子
くりもとようこ:オーボエ,ヴァイオリン,チェロの為の『鏡ノ中ノ蔓珠沙華』(2004)初演
 オーボエ 平山幸子  ヴァイオリン 阪中美幸  チェロ 江口陽子
野村誠:自閉症者の即興音楽(2002/04改訂版)改訂版初演
 クラリネット 福前裕子  ヴァイオリン 阪中美幸  チェロ 多井智紀
 ピアノ 植田浩徳  打楽器 永澤学
酒井格:夜想曲第二番(2004)初演
 クラリネット 福前裕子  ヴァイオリン 阪中美幸  チェロ 江口陽子
 ピアノ 植田浩徳 
大前哲:室内楽のためのアルトロフェストーネ 作品117(2002)日本初演
 フルート 江戸聖一郎  クラリネット 福前裕子  チェロ 多井智紀
 ヴィブラフォン 永澤学  ピアノ 植田浩徳  指揮 小山真之輔
近藤浩平:「旅について」(2002)再演
 フルート 江戸聖一郎  オーボエ 平山幸子  クラリネット 福前裕子
 ファゴット 原梢  ホルン 永武靖子  ヴァイオリン 阪中美幸
 チェロ 江口陽子  トランペット 山田久美子  ピアノ 植田浩徳
参照サイト:MU楽団

各作曲家自身による曲目解説:
鈴木朝子:水の夢〜フルート チェロ ピアノの為の〜(2004)初演
 曲の解説なく、先入観なく聴いていただきたいといつも思いますがせっかくなので。水も音によって結晶が変わるという最近の研究結果に非常に興味をもちました。水も生き物である以上どんな夢をみるだろう、どんな一日を送るのだろう、水の通る道はどんな景色だろうと思いました。この作曲中ダメージのあることもあり、心身共に疲れ、五時間も書くのにかかっています。この曲を今日来て下さっているだろう名古屋のフルーティストぶんげんさん(本名宇佐美さん)に捧げたいと思います。また、色んな作曲の新曲を取り上げて頑張っているMU楽団の方達にも感謝する共に、会場に足を運んでくださった皆様に心より御礼申し上げます(私の曲を聴きにきたつもりの無い人が、沢山いらっしゃるのを承知の上で!?)

近藤浩平:木管5重奏曲「上海の猫」(2003)初演
 上海の音楽素材が直接に使われているわけではないが、少しばかりこの都市のリズムとテンポを反映しているところがあるかもしれない。鮮明な旋律性により、日常的なレパートリーになり得る平明な木管5重奏曲を目標として書いたが、結局は、あまり演奏の簡単な作品ではなくなってしまった。
活発でありながら長閑な休息の音楽。3楽章からなる作品。美味しいものが多い街には猫もたくさん住んでいるものである。

くりもとようこ:オーボエ,ヴァイオリン,チェロの為の『鏡ノ中ノ蔓珠沙華』(2004)初演
 真(マコト)ト見シハ影ナリキ、鏡ノ中ノ曼珠沙華、
 現身(ウツツミ)ナガラ夢ナリキ、昼ナリケレド夜ナリキ。

 題名は北原白秋の詩「幻滅」の中の一節である。ひょんなことから白秋の詩を読んでみた。日本歌曲や童謡のリズミカルな叙情詩というようなイメージしか持っていなかった私は、こんなにも自らの感情を赤裸々に激しく吐露してしまっても良いものかと、驚いた。辛くて哀しくて涙が出た。と同時に、面白い作りになっているなと思った。「幻滅」は「白金之独楽」という詩集(といってよいのかどうか)の中の一つなのだが、ほとんどが四行で出来ている詩は、前の詩の一つのフレーズを引き継いで構成されている。一つ一つ独立した詩でありながら、どんどんつながって全体の詩集を成している。これをやってみようと思った。2003年に作曲。

野村誠:自閉症者の即興音楽(2002/04改訂版)改訂版初演
 打楽器奏者の片岡祐介さんは1997年から3年間、岐阜県音楽療法研究所の研究員として働いた。彼は音楽療法にはあまり共感できなかったようだが、連日のように障害者施設、精神病院、老人ホーム、養護学校などへ出向いて、即興セッションを楽しんだらしい。片岡さんと自閉症者との即興セッションのビデオを見た。興味深い即興演奏だった。「う〜ん」と唸りながらタイコを叩く人、執拗にピアノを弾き続ける人、ドラムセットをフリージャズのように叩く人、その横で狂乱の踊り寝っころがっている人、などが共存している空間だった。全く統率がとれてない音空間だが、現代音楽として聞けば見事に調和したサウンドになっている。この即興セッションのエッセンスをそのまま作品にしたいと思った。楽譜は、自閉症者たちのバラバラ具合、時々反応しあう様子の名残を感じられるように、5線のスコアではなく、手紙風の楽譜になっている。これを作曲家の三輪眞弘さんは「お手紙楽譜」と形容した。2002年にアサヒビールの委嘱で、クラリネット、箏、コントラバス、マリンバ、パーカッションの5重奏として書いた曲が原曲。MU楽団のために、ヴァイオリン、クラリネット、チェロ、ピアノ、パーカッションの5重奏に書き直したのが本日の演奏となる。混沌と調和の微妙なバランスをお楽しみ下さい。

酒井格:夜想曲第二番 Nocturne No.2(2004)初演
 1996年、私はヴァイオリン、ヴィオラ、チェロとピアノのための「夜想曲」という作品を書いています。今回はヴィオラがクラリネットに置き換わっていますが、前作と共通する世界をもっているので「夜想曲第2番」としました。夜想曲第二番の編成でまず思い浮かぶのは、メシアンの「世の終わりのための四重奏」ですが、この作品ではメシアンの影響は全く受けていないと言っても良いでしょう。むしろ、シューベルト、シューマン、そしてブラームスと言ったロマン派のスタイルで書いてあります。ただ、この三人は残念ながらこの編成の作品(私の知る限り)書いていません。私自身、友人達と室内楽作品を演奏することが好きで、弦楽器、管楽器、そしてピアノとが組合わさって生まれる音色に、非常に大きな魅力を感じています。メシアンの四重奏は確かに名曲で、演奏するのも面白いのですが、この夜想曲のようにロマンチックな作品も演奏してみたいというのが、作曲の一番大きなきっかけになったと思います。ホ長調、3/4拍子。ポロネーズ風の主題(クラリネットで提示される)と、シンコペーションが特徴的な第二主題(チェロで提示される)が交互に現れるロンド形式で、演奏時間は約8分程度です。

大前哲:室内楽のためのアルトロフェストーネ 作品117(2002)日本初演
Altro Festone per musica da camera
 1992年から神戸市立博物館において「神戸・音楽の展覧会」(主催:神戸市)を制作、オープニングピースとして室内楽のための5曲の<Festone>シリーズの延長上にあるもう一つのFestoneとして書かれた。曲は重奏と独奏の相互対比を配置した連続する5つの部分から構成されほぼ完全な確定書法で書かれているが、冒頭improvisare(即興風に)と指示されているとおり本来の拍節感はなく、常に同一ではない微妙な“間”の変化が求められる。5人の各奏者固有の音色感やソロイスティックな自由で柔軟な動きを重視することによって、より流麗で彫りの深い音像を表出したいと思っている。なお、この作品は2002年度“イタリア・ウディネ国際作曲賞”第1位を受賞し同年の秋に当地でInterensembleによって初演されている。

近藤浩平:「旅について」(2002)再演
 旅というものは、いろいろな場所を通り抜けて進んでいくものだ。たとえ同じ場所に戻ってきても、季節や天気や草木の育ち具合で、前に来たときのままというわけにはいかない。生き物(動物も植物も)が、あちこちで自分のサイクルで動いて音を出しているように、それぞれのパートが勝手に動いて、しかも全体が調和しているという世界は楽しい。トランペットのソロが、さらなる旅への出発を盛大に喚起する。2002年10月26日、MU楽団演奏会「室内楽の現代〜6人の作曲家の現在」にて初演された作品。今回が2回目の演奏となる。

作曲家プロフィール

くりもとようこ Youko Kurimoto
愛知県立芸術大学、及び大学院修了。作曲家、ピアニストとして活躍。1992年名古屋市芸術奨励賞受賞。現在、日本現代音楽協会、日本作曲家協議会、日本女性作曲家連盟各会員。名古屋芸術大学講師。
NHKラジオ「お話でてこい」音楽担当。

大前哲 Satoshi Ohmae
大阪学芸(現教育)大学卒業。1969〜75年「日独現代音楽の夕」製作。
1978〜84年「現代の波‐現代音楽祭」製作。
1988年より「コタ現代音楽シリーズ」主宰。1992より「神戸・音楽の展覧会」製作。
「グスタフ・マーラー国際作曲賞」第2位(オーストリア)、「ウディネ国際作曲賞」
第1位(イタリア)、大阪文化祭奨励賞、大阪文化祭賞、他、受賞。

近藤浩平 Kohei Kondo
1965年生まれ。関西学院大学文学部美学科にて畑道也氏に音楽学を学ぶ。
国際ピアノデュオコンクール作曲部門入選。山や自然に関わる作品が多い。
http://members.aol.com/R5656m/
主要作品:「島」「森の声」「白い岩山への行進第2番」「うみ山のあいだ」


野村誠 Makoto Nomura
1968年生まれ。作曲家。ガムラン作品が多数、箏の作品も多数ある他、室内楽、管弦楽の作品もある。第1回アサヒビール芸術賞受賞。
Groningen Jazz Festival(オランダ)、Et Maintenant現代日本の創造力(フランス)、Facts of Life(イギリス)など海外での活動も多い。CDに「せみ」「INTERMEZZO」など。鍵盤ハーモニカのアンサンブル「P?ブロッ」主宰。

酒井格 Itaru Sakai
1996年大阪音楽大学大学院作曲専攻修了。作曲を千原英喜、田中邦彦氏に師事。
1997年に開催された「なみはや国体」では式典用の2曲のファンファーレを作曲、また多くの吹奏楽のための作品がオランダのDe Haske社より出版され、日本の吹奏楽コンクールや、欧州でのコンサート
で広く演奏されている。


鈴木朝子Asako Suzuki
ピアノを斎藤登氏に師事。作曲を堀切幹夫氏、故黛敏郎氏などに師事。
現在、日本作曲家協議会、国際芸術家連盟、日本女性作曲家連盟、各会員。詩誌「スウカイナ」同人。詩や小説、絵画などを経てきたが、今作曲している立場から、本来音楽とは何かということを常に考えている。最近は個人へ作曲させてもらうことを喜びとする。
http://www.geocities.co.jp/MusicHall/7147/   


作曲家、小森俊明氏による感想

 山の作曲家、近藤浩平のページ トップページに戻る