オーケストラの将来 P2

クリックすれば各章へ直接進むこともできます
1..はじめに
2.クラシック音楽の現状
3.聴衆の拡大とレパートリー、情報戦略
4.クラシックファンの保守的な耳
5.同時代のメディアとしてのオーケストラ

6.社会性、文化的重要性

2.クラシック音楽の現状

観客動員と保守的なレパートリー

観客動員を、最も手っ取り早くはかるには有名名曲を取り上げるのが、一番簡単な方法だ。
今コンサートに来ている大多数の保守的な聴衆、年一回くらいは、教養や気取りのために年1回くらいはクラシック音楽のコンサートに行ってみようかというブランド志向のクラシックファン。こういったところを常識的に考えれば、実際、有名名曲は聴衆を集めると言える。
現在のクラシック音楽のプロモーターなどは、まったくこの常識によって動いている。
とくに外来オーケストラの来日公演は、常に定番名曲でうまっている。モーツアルト、ベートーヴェン、ブラームス、マーラーからラヴェルあたりまでのひと握りの作品で、曲目が構成されている。話題の外来オーケストラを続けて聴きに行ったらラヴェルのボレロや、ブラームスやマーラーの交響曲の同一曲目聴き比べになる。プログラムビルディングさえ全く同一ということも珍しくない。何人かのピアニストの「ショパンリサイタル」を聴きにいって、全く同じようなプログラムを聴くようなものである。しかも年度ごとに画一的な流行があるのか交響曲の何番をやるのかまで重なってくる。

固定化するクラシック音楽のイメージ…………固定化するクラシック音楽ファン層

確かに、「大部分のクラシック音楽ファンが描くクラシック音楽のイメージ」に合致するこうした古典名曲は、演奏者も聴衆もひとまずはずれなく喜ばせる。現在のクラシック音楽ファンが思い描き、期待するクラシック音楽は、ベートーヴェンやブラームスのような音楽であることは確かだ。それ以外の音楽を好む人達はクラシック音楽の演奏会には最初から行かない。
もしかしたら、ポピュラー音楽やジャズを好きな人たちの中には、ミヨーやプーランクの音楽の方がかえって抵抗なく好きになる潜在的可能性があるかもしれないし、あるいは、ロックやワールドミュージック、ラテン音楽などさかんに聴いているレベルの高い人達のなかには、もしかしたら、19世紀までのクラシックは嫌いだが、ヴィラ=ロボスやヒナステラあるいはライヒやジョン・アダムスやルー・ハリソンなら受け入れる人もいるかもしれない。しかし、現在のクラシック音楽のあり方では、こうした偶然の幸運な出会いというものはめったにない。
クラシックファン以外にとってクラシック音楽とは、昔、学校で聴いたベートーヴェンやチャイコフスキーだけであって、実際、見聞きするクラシック音楽は、そのイメージを全く裏切らない。

次のページへ進む

山の作曲家、近藤浩平 トップページに戻る