オーケストラの将来 P3

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1..はじめに
2.クラシック音楽の現状
3.聴衆の拡大とレパートリー、情報戦略
4.クラシックファンの保守的な耳
5.同時代のメディアとしてのオーケストラ

6.社会性、文化的重要性

3.聴衆層の拡大とレパートリー、情報戦略

聴衆層拡大への長期的視点

オーケストラにとって観客動員は、ただちに財政面に響く。しかも、新しい音楽は楽譜の準備、著作権リハーサル、楽器編成、すべての面で経費と労力がかさむ。
支出を増やし収入を減らすような曲目は避けたい。厳しい財政事情からもこれは、死活問題に関わってくる。
しかし、長期的な聴衆拡大を考えれば、、ヨーロッパ音楽以外の音楽、同時代の音楽にもレパートリーを広げつつ、いろいろな音楽的嗜好の聴衆を、それぞれ満足させながら取り込んでいくことを考えたい。
従来のようなドイツ・オーストリア古典音楽志向のクラシック音楽のファン層は、長期的にはゆっくりと減少していく可能性は高い。従来のレパートリー戦略では長期低落は避けられない。短期的観客動員の減というダメージを最小限に抑えつつ、レパートリーの拡大と聴衆層の拡大をはかる方向を探らなければならない。

新商品は売れないのか、あるいは多アイテムを売れないのか

新製品は最大の露出でプロモーションを行い、新しい定番に育てていくことがマーケティングの常識であり、需要拡大の必須条件であるのに、クラシック音楽業界の大手プロモーターやレコード会社は、逆に定番の絞込みをはかって、リピート率を下げ、聴衆の未知への好奇心を損ねてしまっています。
同じ曲のレコードを2枚買ったり、同一演目の演奏会に2度行くという需要はやはり限界があり、いろいろな曲のCD、いろいろな演目をどれも聴き逃せないと思わせたほうが需要の拡大につながると考えるのが自然です。ショスタコーヴィチの交響曲は、かって5番だけが人気がありましたが、5番だけ聴くよりも、1番から15番までの全てが聴きたいと聴衆に思わせておくほうが、CDもたくさん売れ、コンサートの来場回数も増えるとは言えないでしょうか。
 現状では、ベートーヴェンやブラームスやチャイコフスキーでないと客が入らない、バレエなら「白鳥の湖」でないと、ということで、いわゆる伝統的で保守的な音楽嗜好の聴衆層ばかり追いかけた結果、新しいもの、知的な刺激、驚き、同時代的な共感といったものを求める音楽愛好者層は、他のジャンルに逃げてしまいました。
あるいはコンサートに来ないで家でCDを聴いています。

レコードファンをコンサートへ

おもしろいことに、Tower RecordなどCDショップでは、結構マイナーな曲目や、近現代の音楽が売れることがあるようです。売上を伸ばしているナクソスやBIS、ECMやシャンドス、CPOといったレーベルは、有名名曲以外の音楽を、レコード音楽ファンのコレクター的好奇心を刺激することで売っていくという戦略をもっているようです。CDを家で聴いている人の方が、コンサートに来る客よりも、新しいもの珍しいものが好きだというのは注目すべき現象だと思います。雑誌の「音楽の友」と「レコード芸術」の内容を見比べるだけでもこの違いは明確です。レコードファンを演奏会場に引き込むことが大きな課題です。新しい売れ筋が欲しいレコード業界とのこまめな連携も有用かもしれません。

売れ筋定番の拡大を目標に

バルトーク、プロコフィエフ、ドビュッシーのチクルスなら客が入る。伊福部昭や清瀬保二、芥川也寸志、武満徹なら日本の曲が好きな客が入る、ヴィラ=ロボスやピアソラやライヒやフィリップ・グラスの曲をやると、いわゆるクラシックファン以外の熱心な音楽ファンがやってくる、というように演目ごとに違った客が入ってくるという状況ができれば、オーケストラを支えるトータルな聴衆層はかなり厚くなってくるはずです。
馴染みがないから演奏しないのか、演奏しないから馴染みがないのかといえば後者でしょう。ほんの数年前までプーランクなど、ほとんどの聴衆も演奏者も馴染みのない「現代フランス音楽」だったのが今では、合唱からオペラからピアノまで、すっかり馴染みの作曲家になってしまいました。プーランクは、観客動員のできる有名名曲になり、稼げる演目になっていくでしょう。
クラシック音楽のイメージを狭くすることは新規聴衆の獲得に最終的には有利だとは思えません。「こんなのもある」が重要です。

新しい聴衆をとりこむ話題性、ニュース性からパブリシティへ

クロノスカルテットのコンサートにやってくるような人達を集める定期演奏会があっても良い、グリーナウェイ監督の映画が話題ならマイケル・ナイマンを中心にイギリス現代の特集を組み、映画会社とタイアップする。「レッド・ヴァイオリン」が話題ならコリリアーノの作品を曲目に入れる、フィリップ・グラスをやってロックやプログレファンを引き込むなど、多少ミーハーな煽り方も臨機応変にとりながら、上手にメディアにニュース性を売り込み、パブリシティをかけていくことも必要です。

ネットワーク社会での聴衆開拓

従来のマスメディアへのパブリシティのほか、インターネット上でオーケストラのサイトと、多くの音楽関係、レコード関係のサイト、様々なジャンル、映画、美術などのサイト、あるいはエンタテインメント関係、観光、レジャースポット、地域の商業施設などのサイトと網の目のようにリンクを張って、関心をひきだすことも有効でしょう。
もしも、コンサート会場のそばにおいしいイタリア料理の店があって、イタリア料理関係のホームページ、多くのグルメ関係のホームページで紹介されていたとします。これらのホームページと、「アフターコンサートの食事が最高」とかいうような接点で互いにリンクが張られていればどうだろうか。その店にもオーケストラにとってもいいはなしである。しかもリンクなんてとくに費用はかからないのだ。。

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山の作曲家、近藤浩平 トップページに戻る