オーケストラの将来 P6

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1..はじめに
2.クラシック音楽の現状
3.聴衆の拡大とレパートリー、情報戦略
4.クラシックファンの保守的な耳
5.同時代のメディアとしてのオーケストラ

6.社会性、文化的重要性

6.社会的、文化的重要性

表現の場としての公共性

現在、オーケストラにはある程度、公共性が認められ、不充分ながら助成など公的資金が使われている。ところが、モーツアルトやワーグナーだけを繰り返し演奏するために税金が使われるとすれば、誰でもが納得するわけではありません。世の中はクラシックファンだけではありません。
 しかし、たとえば、いろいろな文化文化、価値観を背景にした、世界のいろいろな場所の様々な音楽的立場の音楽家に、表現の場、文化的発言の場を提供する一環としてなら、助成がなされても納得がいくし、企業が、利潤の一部を提供しても当然だし、私も市民、聴衆の一人として演奏会に足を運び、入場料を払いたいと思います。
 兵庫県が県立オーケストラを計画しているようです。県民の税金を使って運営されるオーケストラが、納税者の県民の作品を演奏しないのはおかしい、という論理があっても、美術や演劇の関係者なら驚かないでしょう。県展の開催を受け入れない県立美術館なんて聴いたことが無い。
 また、世界中の様々な地域の同時代の作曲家に作品発表の機会を提供することで、より創造的な交流の場としてオーケストラは機能するはずです。

世界音楽の中でのオーケストラ

世界中の優れた音楽への認識が深まり、価値判断も文化相対主義といわれるように、欧米至上主義ではなくなってきました。ヨーロッパ以外の音楽を「プリミティブな音楽」「単純で未発達な音楽」「高度な精神性に欠ける」などと低く見る識者はもういなくなりました。
クラシック音楽も世界の優れた音楽のうちの一つと捉えられるようになり、唯一最高の芸術として君臨し特別扱いされるというわけにはいかなくなるでしょう。
 クラシック音楽演奏と、他の創造的な芸術活動、各地域の伝統芸能と、どちらが重要かと問われれば、外来有名演奏家を呼んで有名曲を繰り返させ、西洋貴族趣味の真似事をしているようなクラシック音楽消費の現状では分が悪いと思います。
様々な創造的な音楽活動や、様々な伝統文化とも関わりながら、同時代表現の演奏メディアとしての重要性を確保しなければ、オーケストラという大きなコストをかけた演奏形態は、次第に衰退していくでしょう。

文化、メッセージの発信メディアとしてのオーケストラ

世界に向けての重要なメッセージを伝える文化使節として、非常に大きな役割を担うオーケストラもあります。例えば、広島交響楽団は、国連で平和コンサートを行うなど、この面で最も積極的な活動をしているオーケストラの例です。
ヒロシマのオーケストラとして、ヒロシマに関わる音楽作品を含んだプログラムを組みながら、海外での公演を行う広島交響楽団の活動は、もっと注目されるべきです。
このオーケストラが、非常に高い演奏水準で音楽的感銘をもたらしつつ、各地で十分な聴衆と関心を集めながら、核保有国を含め世界演奏旅行を実施したとすれば、各地のクラシック音楽の演奏会に足を運ぶような人達や、文化人、メディアへのインパクトはかなり大きなものでしょう。 
オーケストラは、ほんの一握りの古典音楽ファンに趣味的エンタテインメントを提供する伝統的演奏形態として生き残るだけではなく、現代の社会、文化の動きに関わる一層、重要な演奏形態としての可能性をもっているのです。

山の作曲家、近藤浩平 トップページに戻る