ホルストの他の作品にも共通した構造が現われている。ホイットマンの《草の葉》をテクストとする『死への頌歌(Ode to Death)』においては、死に対する肯定的受容を歌う合唱にオーケストラによるオスティナートが対立し、まさに'dead'という歌詞の所で両者が合流し、『イエス賛歌』や『海王星』と同様の漂う音響空間へと至る。『ハマースミス』(注101)では、静かに流れるテムズ川の流れとロンドンの生活のざわめきが復調で対置される。
(注101)『ハマースミス』、1930年作曲。吹奏楽のために作曲、オーケストラ版もある。"Hammersmith"(ハマースミス)とはロンドン郊外の地名。ホルストが生活した場所であり、ウィリアム・モリスの本拠地でもある。この曲の発想にはアイヴス(Ives)の『宵闇のセントラルパーク"Central
Park in the dark"』を思い起こさせるところもあるが、ホイットマンを愛読したホルストと、超絶主義を背景とするアイヴスの思想に共通項があっても不思議ではない。